私はこの作品をビデオ(正確に言うと、ビデオをテレビ放送されたもの)でしか見ていないので、あまりよく知りません。また、何かにつけビデオと比較するかもしれませんが、ご容赦ください。
ベン・ライトの王子は、スコット・アンブラーより背が低いせいか、がっしりとたくましく見える。それもあってか、頼りなさの表現も、アンブラーほどではない。(ビデオを見ていない夫には、ライトも十分頼りなく見えたらしいが)
私にはちょっと物足りなかった。
王妃(女王?)は、サランヌ・カーティン。彼女は、フィオナ・チャドウィックの王妃より若々しい感じ。(実際、若いのかもしれない)
しかし、冷たく威厳のある様子や若い兵士に接する時に見せるお色気など、好演していたように思う。
王家の私設秘書官は、バリー・アトキンソン。実は、私はこの人が好き。主役二人が小柄組なので、背が一人すっきりと高く、とても目立つ。(髪の毛もないことだし…。あれは剃っているんでしょうか?)
この日も、悪役ぶりがはまっていて、お見事。
王子のガールフレンドは、ヴィッキー・エヴァンスが演っていたが、彼女も好演していたように思う。前半の下品な態度や、後半の王子を気遣うそぶりなど、とても良かった。
さて、ケンプの白鳥。
舞台奥から登場して、前方まで跳ねてゆき、客席にギンと顔を向けた彼は、人間ではなかった。鳥、そうでなくてもおよそ彼から人間的な気配を感じ取ることはできなかった。
確かに、異様なメイク、羽根をつけた衣装ではある。彼を鳥に見せていたのは、しかし、そんなことではなかった。黄色く光った(ように見えた)ケンプの目は、明らかに人間の目ではなかった。
とにかく、あの一瞬は非常に印象的だった。
ライトとのデュエットも良かったが、私はヴァリアシオンのケンプが素晴らしかったと思う。特に、最後の方の、王子を見遣りながらくるりくるりと身を翻すところ(?)など、しなやかかつ力強くて、見ていて実に気持ちが良かった。
この作品で、白鳥の群舞を見ると、いつもある事に思い至る。それは、白鳥という鳥の大きさ。筋肉隆々の男性たちが羽ばたく振りをする時、身近にいる鳥の中では恐らく最も大きい鳥のうちに入るであろう白鳥の、翼の力強さを感じずにはいられない。
クラシック・バレエの白鳥たちには、優美さとか柔らかさのイメージがあり、それはまさしく白鳥という鳥の最大の特徴なのだが、こういった従来のイメージを破壊し、別の一面に光を当てたところに、この作品のユニークさがあるのだろう。
舞踏会でのベン・ライトも、私には少々不満。アンブラーは、頼りなくても「王子」という雰囲気があるが、ライトからは感じることができない。坊やではあっても、お坊ちゃまとは思えない。
ケンプの黒鳥は良かったが、アダム・クーパーに比べたら、ややマイルドだったかな。
一幕は大いに笑わせてもらった。二幕は、私は楽しかったけど、夫は眠たかったそうだ。
プレヴュー公演のせいか、笑いを取るタイミングがいまひとつだった場面があった。また、二幕のスペインの踊りは、群舞のノリが良くなかったように思う。
途中、裏方の物音が聞こえたが、試演なので今回はエクスキューズがきくでしょう。
ビデオと細かいところが違っていて、それを発見するのも楽しかった。
王妃の絵がアンディ・ウォーホル調になっていたり、オペラハウスに出かける前にガールフレンドが王室ペットの犬に噛まれたり。他にもいろいろ。
ところで、思いがけないところで客席から笑いが起こって、戸惑うことが何回かあった。
例えば、黒鳥が登場時に王妃の手にキスをする代わりに、ベロベロと肩までなめると「わっはっはっは」と大笑い、黒鳥のパ・ド・ドゥで王妃と王子がバトンタッチする場面でまた「わっはっはっは」。私は「あれれ?ここは笑うシーンだったのぉ???」と思わずキョロキョロ。前者では黒鳥のワルぶりを衝撃的に表現していると思っていたし、後者では「ほう、なるほど」と思って感心していたのだけど。
日米の笑いの違いなのだろうか? でも、日本男児の我が夫は「あそこ?おもしろかったやん」(←関西人です)と言うし…。彼がアメリカナイズされてしまったのか、それとも私が一人世間からズレているだけなのか。
ロングランもののミュージカルに行くと、いかにも観光客といった観客が多いのだが、この日は地元の人や業界関係者が多いように見受けられた。(実際、私の横の人もプロのライターで、熱心にメモを取っておられた)