今回は、白鳥・王子とも別キャストで見てきました。
王子、王子はやはりアンブラーでなくては。今回実演のアンブラーを見て、そう強く思ってしまった。
王国の後継ぎとしての立場に悩み、孤独にさいなまれ、身近な者に裏切られる王子の前に、漠々と立ちふさがる濃密な闇。アンブラーを通して、それが今回見えた気がした。
イザベル・モーティマー演じる女王とのややアブナイ一幕のデュエットも、王子の心の悲鳴が聞こえるよう。王子の苦悩と女王の戸惑いがからみあい、ねじれて舞台で渦を巻いているみたいだった。
クーパーの白鳥は、あの長身にもかかわらず、何と跳躍の軽いことか。ふわりと身体が浮く瞬間は、実際の白鳥が羽ばたく様を彷彿とさせる。大型の鳥は、ひと羽ばたきするだけで上から何かに吊り上げられたかのようにフワンと浮くが、クーパーの跳躍もそんな感じ。足で床を蹴って跳んでいるとは思えないぐらいだった。
回転もキレが良く、とても美しかった。ケンプより鋭い印象を受けた。
湖畔のシーンが終わって、アンブラーが生きる喜びを見出し、タラリラ〜と帰っていくところには、なぜか非常に共感を覚えてしまった。王子を取り巻く闇の中で、私もともに息苦しさを体験し、白鳥との出会いで一筋の光明が見えた時には、王子と同じ喜びを感じたのだろうか。
モーティマーの女王は、全体的にたおやかな印象。表情なども柔らかい感じがした。前回のサランヌ・カーティンは、フィオナ・チャドウィックの女王に表情づけなどがよく似ており、ガールフレンドを却下する時などはそっくりの演技をしていたが、モーティマーは自分だけの女王を創り上げているようだ。私はどちらかといえば、チャドウィック/カーティン路線の方が好きだが。
バリー・アトキンソンにかわり、今回の王家の私設秘書官は、マシュー・ボーンご本人。初めて拝見したが、あんなに秋元康氏に似ていらっしゃるとは……。
髪は黒々として、ポマードでてかりも出ており、わりと丸い体型。アトキンソンとは全く違う秘書官。
アトキンソンは渋くて、余裕の笑みを浮かべるスマートな陰謀家という感じだったが、ボーンはもっと若くて脂ぎった感じ。アトキンソンがギラリだったら、ボーンはギラギラ。
酒場で、王子の不様な姿をちょこまかちょこまか写真におさめているシーンなどは、少しコミカルに見えた。
王子のガールフレンドは、またもやヴィッキー・エヴァンス。今回も、好演していたように思う。彼女が殺されてしまうところは、やはり悲しい。
ニ幕、舞踏会に出席する各国の王女たちの中で、衣装・髪型が変更されている役があった。私の記憶が間違っていなければ、さらにゴージャスになったのでは?
クーパーの黒鳥は、ダイナミックスさと鋭さを兼ね備えた素晴らしいものだった。
白鳥では、ケンプもクーパーに勝るとも劣らないと思ったが、黒鳥ではワルの凄みがクーパーに比べ、おとなしいような気がする。
さて、舞踏会で不幸が決定的になる王子は、アンブラーの演技が秀逸。狂気の世界に足を踏み入れるシーン(みんなに取り囲まれてあざ笑われるところ)や発砲事件を起こして舞踏会場からひきずり出されるシーンなど素晴らしい。
また、最後の場でも、助けにやってきた白鳥が殺されてしまって泣き出すところは、この人ならではの慟哭の表現を堪能した。あのシーンの彼を見ていると、「もう誰にもこの不幸な王子を救うことはできない。このまま死なせてやることが最もいいのだ」というあきらめのような心境に、私は達してしまう。叱咤激励する気持ちが失せてしまうのだ。それほどに哀れな王子の最期なのだ。
恐ろしい白鳥たちが攻撃してくる中、守勢にたった白鳥と王子が寄り添っているところは、もはや男同士がどうのという意識が入ってくる隙間もないぐらい純粋な愛情が感じられて、とても感動した。
この作品では、白鳥がオデットのように人間になったりせず、最後まで動物として登場しているので、二つの魂の真摯な愛、と素直に感じられる。その意味では、白鳥の役がちらっとでも人間性を見せたら、たちまち違ったニュアンスが出るかもしれない。(月影先生の教えのようですが)
全体的に、私が前回見たプレヴュー公演よりずっとひきしまって、完成度が増していたように思える。
白鳥の群舞や舞踏会での群舞も、今回の方がまとまっていて、数段良かった。