ナショナル・バレエ・オブ・カナダ 



98年10月11日(日) 2:00PM〜
ニューヨーク、シティ・センター



I.「ワシントン・スクエア」( Washington Square )
振付 = ジェイムズ・クデルカ( James Kudelka )
音楽 = マイケル・コンウェイ・ベイカー( Michael Conway Baker )

キャサリン = マーティン・ラミィ( Martine Lamy )
モリス・タウンゼント = ヨハン・ペルソン( Johan Persson )

 ヘンリー・ジェイムズの小説「ワシントン・スクエア」のバレエ化。

 幕が開くと、ニューヨークの医師、スローパー博士の屋敷。飾り気のない、非社交的な性格である博士の娘、キャサリンが刺繍をしている。調度品などから、スローパー家が豊かなことは分かるが、家もキャサリンも暗い雰囲気。
 ある日、パーティーで紹介されたハンサムな青年、モリス・タウンゼントがキャサリンを気に入り、彼女も次第に打ち解けていく。
 ワシントン・スクエアで、モリスはキャサリンに婚約指輪を送り、プロポーズする。
 しかし、厳格なスローパー博士( Hazaros Surmeyan )は二人の結婚に反対。キャサリンは初めて父親に反抗し、モリスと駆け落ちの約束をする。
 深夜、自分の家の玄関で旅行かばんを持ち、モリスを待つ旅装のキャサリン。けれど、約束の時間になってもモリスは現れない。事態に気づき、スローパー博士と叔母が寝間着のまま玄関に出てくる。悲嘆にくれるキャサリンに刺繍の道具を渡すスローパー博士。
 時が流れ、一人孤独に暮らす黒衣のキャサリン。暖炉の前に置かれてあった二脚の椅子が一脚になり、階段に架かっているスローパー博士の肖像画の縁に黒い幕が掛けられいて、父親がすでに他界していることを表している。
 そこへ突然モリスが現れる。彼の髪の毛にも白いものが混じっている。
 キャサリンは驚きながらも、モリスとともに踊る。しっとりとした二人の雰囲気。キャサリンがまだ自分を愛していることを信じて疑わないモリスは、再び彼女に愛を告白する。(キャサリンはまだ指輪をはめている)
 二人は再び会う約束をし、彼は嬉々として帰っていく。
 夜、約束の時間にやって来たモリスはドアをノックするが、キャサリンはなかなか出てゆかない。メイドにも出るなと命じ、さんざん焦らしたあげく、ドアに鍵をかけてしまう。空しく響き続けるノックの音。幕。

 キャサリン役のマーティン・ラミィは、とても良かった。前半の内気さの表現は、見ていてイライラするほどだし、パーティの時の真っ赤なドレスが全然似合わないのもいい。あれを華やかに着こなしてしまうと失格だ。(まあ、滑稽なぐらい派手なドレスではあったが) また、恋を知った時は控えめながらも清らかな輝きを放っていた。恋人に裏切られて隠者のようになってしまう後半も、無理がない。特に、最後のモリスを焦らすところが、とても陰険で良かった。

 モリス・タウンゼントを踊ったヨハン・ペルソンは、ラミィに比べて演技は平板だったように思う。
 私は原作を読んでいないので、なぜ彼がキャサリンを裏切ったのか結局分からずじまい。演出の問題なのか、それとも彼の演技のせいなのか。駆け落ちの約束をした後、ワシントン・スクエアで彼が白い風船を空に飛ばすシーンがあり、(その前に、彼は同じ場所でキャサリンに白い風船を買ってやる)、あれがキャサリンをあきらめることを表しているのだと思うが、「なぜ?」という感じ。駆け落ちを断念する理由が全くわからない。
 しかし、踊りは良かった。キャサリンは主役のわりにそんなに踊らず、演技の方に重点が置かれているようなので、踊りで印象に残ったのは、ペルソンの方。パーティーやワシントン・スクエアや、あちこちで踊りまくっていたという感じ。ただ、そのため、踊りに気持ちの裏付けがないように思えた箇所もあった。「なぜ、ここでこう踊る?」と首を傾げることもあった。

 スローパー博士とキャサリンが踊るシーンもあるが、博士はパジャマの上に長いガウンを着ていて、とても踊りにくそうな衣装なのに、すっきりとこなしていたのには驚いた。

 一番印象的だったのは、キャサリンが家の大きな時計を見て、モリスへの意趣返しを思いつくところ。彼女は以前彼に裏切られているわけだが、再び現れた男といい雰囲気で踊り、過去を水に流したかのように見える。だが、時計が目に入るや、しばらくそのまま時計の前に立ち尽くす。そして、「○時にここに来て」とマイムでモリスに言う。そのマイムは、昔彼がキャサリンにしたものと全く同じなのである。「オネ−ギン」の手紙のシーンを思い出して、興味深かった。


II.「四季」( The Four Seasons )
振付 = ジェイムズ・クデルカ( James Kudelka )
音楽 = アントニオ・ヴィヴァルディ( Antonio Vivaldi )

男 = アレクサンダー・アントニジェヴィック( Aleksandar Antonijevic )
春 = ステイシー・シオリ・ミナガワ( Stacey Shiori Minagawa )
夏 = ジェイミー・タッパー( Jaimie Tapper )
秋 = ジェニファー・フォアニア( Jennifer Fournier )
冬 = ヴィクトリア・バートラム( Victoria Bertram )

 一人の「男」が、春夏秋冬のソリストやコール・ド・バレエと、次々に踊る。

 まず、「春」。これは見ていてしんどかった。
 ミナガワもコール・ドも重たい。弾むような「春」の音楽(第二楽章を除いて)に全然のっていない。コール・ドも息があっておらず、ドタドタした印象。
 衣装にも私は関心しない。なぜ、あの生地で、あのデザインなの? 「男」もコール・ドの男性ダンサーたちも背広をアレンジしたような衣装。女性たちは、シルバーの燕尾服の上着のような衣装。(春だからイースター→ウサギさん→バニーガールというような発想ではないよなあ。カナダにはバニーガールいないだろうし)男女とも上着の裾が長く、それが重たさの一因にもなっているのだろうか?

 「夏」。これは大当たり。
 タッパーが「春」のダンサーと入れ替わるように舞台に進み出てきた時に、舞台のすべての空気が彼女の周りにさっと引き寄せられる気がした。
 続く「男」とのデュエット(第一楽章のアレグロ・ノン・モルト)は、あまりにも素晴らしく、いまだに鮮明に記憶に残っている。この「夏」を観たせいで、いまだに私は毎日「四季」のCDを聞きつづけているのだから。
 ゆっくりと穏やかなイントロから、音楽はあまりにも突然に変調する。ソロ・ヴァイオリンの狂おしいまでの旋律に、二人の踊りも目まぐるしく展開する。あまりの速さに、観ている方がめまいをおこしそう。しかし、それを二人は全く危なげなく、涼しい顔でこなしてゆくのだ。
 途中、音楽が緩急を繰り返すが、「緩」のところはしっとりと情感豊かに見せ、「急」のところは少しも遅れることなく、爽快感を感じるほど小気味よくリズムを刻んでゆく。見事の一言。
 アントニジェヴィック(東欧の名前なので読み方が分からないんです)は、力強く完璧なサポートで、あの難しいデュエットを安定したものにしていた。
 また、タッパーが取ったポーズで、はっと息を呑むほどに美しいものがいくつもあった。
 アントニジェヴィックとタッパーは、第二・第三楽章も調子が崩れることなく良かった。
 二人の動きに目が釘付けで、コール・ドがどうだったか覚えていない。(ごめんなさい)

 私が行った日は、ダブルキャストの裏といわれる方だったが、「夏」の表は、アメリカのダンス・マガジンでも特集されていた新進プリンシパルのグレタ・ホジキンソン。タッパーは、まだセカンド・ソリストだが、出世の早さはホジキンソンに並び称されるらしいから、彼女が「夏」を踊ったのはなるほどと思う。

 「秋」の第一楽章は、再び田園調の音楽で始まる。
 秋のソリスト、フォアニアの踊りには、回転の最後に大きくバランスを崩す等の、粗いところがいくつか見られた。ただ、彼女は美貌かつ理想的なプロポーションをしていて、とても華がある人だ。
 コール・ドが農作物の収穫作業のような動きをしたり、フォアニアが額の汗をぬぐう振りをしたりと、コミカルなところもあった。

 「冬」は、かなり前の三つと様相が違っていた。
 「男」は、「春」で着ていた背広もどきの上に、ロングコート(のようなもの)を着ている。他の3人の男性ダンサーも同じ服装。4人が早足で舞台を歩き回るとまるで通勤風景。
 「冬」には、他に老人(?)が3人登場し、そのうちヴィクトリア・バートラムが重要な役どころ。(彼女は「ワシントン・スクエア」でキャサリンの叔母を演じた) バートラムは、跳んだり回ったりといった踊りをせず、「男」をひたすら見守り、かばうような仕草をする。この老人たちは、人生の冬を表しているのだろうか。
 第三楽章では、「男」は3人の若い男にぶつかられたり、行く手を塞がれたりして、最後にはバートラムの膝の上で死んでしまう。(再生の物語は??)

 四季を通じて、出っぱなしの「男」役、アントニジェヴィックは大変だったと思う。でも、最後まで素晴らしかった。

 また、ソロ・ヴァイオリニストのフジコ・イマジシにも、惜しみない拍手が送られた。彼女はとても小柄な人だったが、全曲を通じて見事な演奏で舞台を支えた。

 この日は、観客がかなり少なく、びっくりした。私は2階にいたのだが、そこは半分にも満たなかったのではないだろうか。(1階と3階は見ていないけれど)
 しかし、お客さんの拍手はとても暖かかったと思う。私も一生懸命拍手しました。


 
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