アメリカン・バレエ・シアター 
「ジゼル」( Giselle )


98年5月21日(木) 8:00PM〜
ニューヨーク、メトロポリタン・オペラ・ハウス
原振付 = ジャン・コラーリ、ジュール・ペロー、マリウス・プティパ
      ( after Jean Corelli, Jules Perrot, Marius Petipa )
音楽 = アドルフ・アダン( Adolphe Adam )

ジゼル = アマンダ・マッケロウ( Amanda McKerrow )
アルブレヒト = ウラジーミル・マラーホフ( Vladimir Malakhov )


 一幕、マッケロウのジゼルは、「体の弱い、繊細な乙女」というよりは、「しっかりした、理知的な」という印象。ライン河畔の農村でぶどうの収穫を祝っているよりは、キャリア・スーツに身を固め、携帯電話を片手にウォール街を濶歩している方が似合いそう。
 はかなげなジゼルが好きな私は、「このジゼルがアルブレヒトに騙されているの?」と意地悪く考えてしまった。ジゼルはお姫様ではないので、上品でなくてもいいのでしょうが、もう少したおやかな風情が欲しいなあ、と思った。
 たとえば、花占いの場面で、「愛してる」では首を小刻みに上下に振り、「愛してない」では大げさに眉間に皺を寄せて、とてもダイレクトな表現をしていた。(とっても分かりやすいんだけど・・・) 関係ないですが、アルブレヒトが一枚花びらをちぎり取って数合わせをするところでは、場内からおじさまたちのフォッフォッフォッという笑いが起きていました。(ああ、素直なアメリカ人たち)

 マッド・シーンでは、マッケロウは「悲しみ」というより、ショック状態からいきなり「狂い」に転じていたように見えた。

 二幕は、とても素晴しかった。一幕のジゼルの表現は、この幕との違いを強調するためだったのかなあ、とも思った。技術的にも安定していたし、肉体を失ったジゼルのはかない存在がとてもよく感じられた。リフトは、マラーホフによるところも大きいのだろうが、本当にふんわりと軽やかに上がっていて、彼の頭上で空気に漂っているようだった。

 さて、マラーホフだが、予想通りというか期待通りの素晴しさで、堪能できた。

 ジゼルを上目遣いに見ながら、バチルドの手にためらいがちにゆっくりと唇を持っていく瞬間、マラーホフのアルブレヒトは非常に怯えている。ジゼルの前で、自分の嘘を認めることが、本当に辛そうだ。アルブレヒトの動きに合わせて、会場の空気もぐっと引き締まっていくのが感じられる。彼は舞台上で村人たちに半円状に囲まれているが、息を呑んで見つめる客席を含めると、実はもう半円分の目があるわけだ。すべての角度からの堪えがたい注視に、この上なくアルブレヒトが緊張しているのが、マラーホフの背中から伝わってきた。
 また、ジゼルが事切れた瞬間、ものすごい勢いでヒラリオンに向かって突進するところなどは、白目をむいていて、ド迫力モノだった。

 二幕のパ・ド・ドウは、あまりにも美しく、私は我を忘れてひたすら見入ってしまった。ウィリーたちの白い一団に取り巻かれながら、ゆったりとしたアダージオにのって、二人が踊るさまはまさに夢幻の世界。
 二人の演技や踊りがどうだとか、二人がかわいそうだとか頭で考える余裕を、私は完全に失っていた。目で見たことが、そのまま涙腺を刺激したらしく、気がついたら頬が濡れていた。

 それと、夜が明けて、ウィリーたちが去っていった時のマラーホフの表情がとても印象的だった。ジゼルと踊っているのに、目を大きく見開いたまま、前方(観客席の方)を凝視している。踊り疲れからくる虚脱状態、さめやらぬ恐怖などを表わしているのか。

 ペザント・パ・ド・ドゥは、アシュリー・タトルとアンヘル・コレーラ。二人ともプリンシパルなので、テクニック面では全く問題なし。
 コレーラは、本当に楽しそうに踊っていて、気持ちが良かった。もちろん大喝采。
 タトルは踊りは素晴しいのだが、落ち着きすぎていて、コレーラとの釣り合いがとれていなかったように思う。ペザントというよりは、思慮深くて冷静なお嬢様といった風。

 コレーラとともに適材適所だったのは、ミルタを踊ったイリーナ・ドヴォロヴェンコ。
 彼女は本当に頭が小さくて、手足が細長いので、舞台映えがする。この夜も、月光を模した青白いライトが、彼女の冴え冴えとした美貌を際立たせていた。
 もちろん、素晴しかったのは、その麗姿だけではありません。彼女のミルタは、ただウィリー達の群れの先頭で踊っているのではなく、彼女たちを「統率している」という言葉がピッタリ。
 また、私は、ヒラリオンがウィリー達に踊らされている時の、ドヴォロヴェンコの表情を忘れることができない。睨むでも険しい目つきをするでもないのに、ひたと冷たい視線を男に当て、口元にはうすく笑いを浮かべている、その白い顔はゾッとするほど恐ろしかった。
 跳躍も高く、空中でのポーズも惚れ惚れするほど美しい。回転のキレもよく、鈍く白銀色に光るトウが、夜の闇を小気味よく切り裂いていた。
 カーテンコールで、彼女が主役に劣らぬ拍手をもらっていたのは、当然だろう。去年の春にABTのダンサーとしてデヴューして以来、彼女はNYで着実にファンを増やしているようだ。

 二幕のコール・ド・バレエは、とてもよい出来だった。短い鑑賞歴の私が言うのも何だが、今までに見たABTのコール・ドでは最高のランク。

 踊りとは関係ないですが、一幕で貴族たちが連れてくる犬がとてもきれいだった。犬種は分からないが、いかにも貴族が飼ってそうな、ちょっとその辺ではお見かけしない犬である。でも、あれ猟犬なのだろうか?

 最後に、文句をひとつ。二幕の最初の方で、ジゼルがアルブレヒトに花をぱらぱらと投げ落とすところで、ジゼルが見えなかった。ジゼルの立っている場所は下手の袖近くで、1Fの左寄りに座っていた私には、落ちてくる花しか見えませんでした。初めて見る人は、なぜ突然花が落ちてきて、アルブレヒトがそれを悩ましげに抱きしめているのか分からないかも。

 去年も私はオーロラのベッドが見えなかったのだが、今年もついてなかった。もうちょっとセットの配置を考えてほしい。「full view」として売る席には、舞台上で起こっている事柄のすべてが見えるようにして頂きたいのだが。



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