第十回 アメリカでの育児:その一



 「アメリカでの育児」といっても、育児日記を載せるわけではありません。(第一そんなもの書いていない)

 今回から数回にわたって、友人の話や新聞などで知った日本の育児の様子とアメリカで私の子育て体験とを比較してみて、面白いと思ったことを取り上げます。他愛もないことも含まれています。


1.出生届


 赤ちゃんが生まれて、最初にする公的な手続きがこれでしょう。

 日本の場合、生まれた日から14日以内に市区町村役所に出生届を提出しますが、海外に住んでいる場合は日本大使館か所轄の日本領事館に3ヶ月以内に提出します。
 (私の住んでいるニュージャージー州は、在ニューヨーク日本領事館の管轄地域なので、そこへ出生届を提出しました)

 以前、成田からニューヨークJFK空港に向かっていた飛行機で、アメリカ人と結婚した日本人女性と隣り合わせたことがあります。彼女は生後1ヶ月ぐらいの赤ちゃんを連れていて、ちょうど日本のご両親に初孫を見せてきた帰りとのことでした。
 彼女はニューヨーク州内に住んでいましたが、JFK空港で飛行機を乗り換え数時間更に飛び、そこから自宅までは車で1時間かかると仰っていました。
 出生届は郵送では受け付けてくれないし、日本領事館もそこここにあるわけではないので、こういう遠隔地に住む人がもし子供に日本国籍を取得させたい(=日本領事館に出生届を出す)と思うなら、3ヶ月ぐらいの余裕は必要だろうな、と思います。

 さて、国籍に関しては血統主義の日本と違って、産地主義を取っているアメリカ合衆国は、その領土内で生まれた子供には親が何人だろうとアメリカ国籍を与えてくれます。
 つまり、日本人の両親を持つ私の息子はアメリカ産なので、日米両国の国籍を持っているわけです。親がそれぞれ違う国籍の人で、こういう産地主義の第三国で生まれた赤ちゃんは、三重国籍になるケースもあります。(重国籍の人は22歳に達するまでに国籍を選択しなければいけません)

 ちなみに、日本領事館へ提出する出生届には、日本国籍を留保するかという欄があって、ここに署名しないと・・・・あれれ、どうなるんだろう?(ここまで書いて、ふと疑問に思った)
 日本領事館で出生届が受理されたということは、日本国民となったということではないのかしらん??
 永住する人の中には、「生まれた赤ちゃんを自分達の子供として日本の戸籍に入籍するけど、この子には最初から日本国籍はいりません。アメリカ国籍だけで充分です」という人もいるのかもしれない。

 一瞬混乱しましたが、次に行きましょう。
 アメリカの出生届は、病院がすべてやってくれるので何もする必要はありません。ただ、こちらは2泊(州によって違うかも)で退院なので、赤ちゃんの名前は男女双方の候補を真剣に絞り込んでおく必要があります。決断が早い人ならいいでしょうが、赤ちゃんの顔を見てから考え始めるわ〜とのんきなことを言っているヒマはありません。
 また、アメリカには日本の戸籍にあたるものがないので、親の籍に入れるとかいう考えはありません。
 ただ、出生証明書はパスポート取得や各種手続きにいるので、取り寄せる必要があるでしょう。


2.小児科


 アメリカ人は日本人よりも医師選びを慎重にしているように思います。
 私のアメリカ人の知人は、健康診断で思わしくない結果が出た時、数人の医師と面談して、自分の治療にあたる人物を選択しました。
 彼女によると、投薬で治しましょう、と言う医師あり、手術して患部を切除しましょうと言う医師あり、それぞれ治療方針が違い、熟慮の結果、1人の医師を選んだそうです。

 これは特殊なケースではなく、一般的なことだそうです。

 私は産科は友人の評判で決めたので(満足のいく結果でしたが)、息子の小児科医はアメリカ式で選んでみようと思いました。
 アメリカの健康保険は日本のと違い、医師によっては提携していないケースがあるので、まず自分の加入している保険がきく医師を選ぶ、というのは最低条件でした。

 次に、アジア人の子供をみたことがある医師。
 というのも、蒙古斑( Mongolian Spot )の知識がない医師は、場合によっては幼児虐待の疑いで警察に通報してしまう恐れがある、と聞いたことがあるからです。もちろん、知識はなくても、医師自身の探究心や親との信頼関係など他の要素もあるのでしょうが。
 また、黄疸( jaundice )もアジア人の赤ちゃんに時々見られますが、「全身の血液を入れ替える」と言い出すアメリカ人の医師もいるそうです。(実際には、とても簡単な光線療法で治ります)
 私の住んでいる地域は、アジア人が多く、このポイントは難なくクリア。

 後は、英語の問題です。
 子供の身体や病気のことですから、「よく分からなかったけど、多分こう言ったと思う」では済まされません。「この薬を処方しますから、1回○○ml、▲▲時間おきに飲ませなさい」、「こういう状態になったら大丈夫だけど、こういう状態なら2日後にまた連れてきなさい」などの指示が正確に聞き取れないと、大変なことになる可能性があります。
 英語が堪能とは言えない親の場合、医師に何度も同じ事を言わせたりしてしまいますが、それをうるさく思う医師だと、こちらも気を使って疲れてしまいます。

 私は臨月に入って、二人の小児科医と面接しました。
 お二人とも好印象でしたが、より英語が聞き取り易かった方を選びました。(「この人の英語は聞きやすい」とか「話すリズムが自分に合っている」とかあるものです)
 息子は彼女に2年余りお世話になっていますが、私の理解があやしい時は嫌がらずにすぐ「書きましょう」と口と手を両方駆使して、私の納得のいくまで丁寧に説明してくださり、とても満足しています。

 小児科に限らず、アメリカの医院は予約制なので、日本のように診察券を出して呼ばれるまで待つという先着順システムではありません。
 一見、予約を取るのは面倒くさそうですが、子供の具合が悪い時にあまり待たずに診察を受けられる、という点で優れていると思います。
 実際は予約の時間になっても、前の患者の診察が終わっていない場合もありますが、風邪のはやっている時期に病気の子供が待合室にあふれかえるという光景はありません。


3.離乳食


 日本では、平均的には生後5ヶ月ぐらいから離乳食を始めるようです。
 日本の育児雑誌には、美しい写真付きの離乳食のレシピがザザーンと並んでいて、あれを見ると私はいつもクラクラしていました。
 もともと料理好きというわけではないので、「毎日クタクタなのに、なんでこんなに離乳食って手がかかるわけ?」と腹立たしい思いまで湧きあがってくる始末。
 でも、近所に住む日本人の友人は、出産後赤ちゃんにハマッテいて、「離乳食作りが楽しい〜!」と言っていたから、人様々なようです。

 小さい赤ちゃんだと、ほとんどすべての食材をドロドロの状態にしなければいけません。私が持っている育児本から、日本人の赤ちゃんが最初に食べる定番、米粥の作り方(5〜6ヶ月児用)を例にとると、

 @ご飯1に対し、5倍量の水を加える。
 A弱火にかけ、約5分煮る。
 B4〜5分蒸らす。
 Cすり鉢でよくすりつぶす。

 野菜や魚などになると、もう少し工程が複雑になりますが、いずれにしろ、すり鉢ですりつぶしたり、裏ごししたりして、スプーンからトロ〜っと垂れ落ちる状態にしなければいけないのです。(出産後に家事の量が増え、赤ちゃんの夜泣きで睡眠不足の人にとっては面倒くささも倍増です)
 これで赤ちゃんが丼一杯食べてくれるなら、まだやり甲斐もあろうというもの。しかしながら、5〜6ヶ月の赤ちゃんならスプーン数杯が関の山でしょう。(ま、一度に大量に作って冷凍する手もありますが)

 アメリカの場合、罪悪感なく市販品の瓶詰めを使う親がほとんどです。
 30年ほど前に育児をしていたアメリカ人女性に「離乳食は何を作っていたか」と聞いたところ、やはりその時代から瓶詰めだったそうです。「Because it's easy.」というとてもイージーなお答えでした。(笑)
 アメリカ小児科学会も、市販品を推奨しています。専門のメーカーが作る方が家庭で調理するより衛生面で優れている、からだそうです。(衛生観念の行き届いている日本人には、ちょっとビックリの理由ですが) それに、農作物とかに汚染が見られた場合も、メーカーはいち早くその情報を得られる、という理由も聞いたことがあります。
 いずれにしろ、メーカーが不正なことをしない、という大原則の上に成り立つ理由ですけどね。(日本では、それがいまグラグラですが・・・)
 また、日本に比べ、仕事を持っている母親が多く、手間をかけられないという現実もあるでしょう。
 とにかく、アメリカでは「離乳食を手作りしない母親は失格だ」とか「市販品を食べさせられている赤ちゃんは可哀相」といった考えは全くありません。

 私の場合は息子の4ヶ月検診の時、小児科から離乳食の進め方の指導がありました。(アメリカでは4ヶ月から始めるのが一般的のようです)
 日本の米粥に相当するのが、米のシリアルです。
 シリアルと言っても、普段私達が食べるコーンフレークのようなものを想像してはいけません。非常に細かく砕かれた米のかけらに、母乳や人口乳をまぜ、かき混ぜるとドロドロのおかゆ状の物ができるのです。
 これは「栄養バランスがばっちり」で「いとも簡単に作れ」、「混ぜ込まれているお乳の味がするので赤ちゃんも嬉しい」と三拍子揃っている優れモノです。
 米の他に麦などの穀物もラインナップされていますが、米はアレルギーをひきおこしにくい食品なので、最初はこれがいいのだ、と説明されました。(ひとケース終わったら、他のもすべて試すようにとも言われました)

 また、シリアルとは別に、瓶詰めのベビーフードも食べさせるように薦められました。(ここでも、手作りが一番よ〜などと言う人は誰もいません)
 食物アレルギーに関しても、「これは○ヶ月から食べさせてよい、これは○ヶ月から・・・・(ツラツラツラ)」とか「初めて与える食べ物は1回の食事につき1つだけで、次の新しい食べ物を与えるまで少なくとも3日間あけて経過をみましょう」とか、なかなかきめ細かい。

 日本の育児本の離乳食ページのメインは、「とろみのつけ方」などのように調理テクニックや豊富なレシピなので、味にこだわる日本人がかくして作られるのかと思います。加えて、日米の母親が行う家事・育児のボリュームの違いも垣間見た気がします。

 ところで、市販品の瓶詰めですが、日米の製品を比較するとなかなか面白いです。
 日本では白身魚を使った離乳食はメジャーですが、アメリカでは、私は魚系は見たことがありません。
 反対に、仔牛、七面鳥、仔羊を使った離乳食は、日本では発見できませんでした。もっとも、日本滞在中のわずかな期間では、充分にチェックはできませんでしたが。
 ちょっと大きい赤ちゃん用の離乳食になると、日本のメニューの凝っていること。アメリカのに比べて、味もとても良いし、固さなども調節してあります。
 価格は、アメリカの方がずっと安いです。(かかっている手間や材料費も違うと思いますが) 私も一時帰国の際に日本の瓶詰めをいくつか買って帰りましたが、値段が高くて、毎回使おうという気持ちになれませんでした。旅行時やとても疲れている時の保険感覚で、キッチンに備蓄していましたね。

 ぐうたらな私は、息子が8ヶ月ぐらいになってやっと手料理(?)を作ってあげました。
 というのも、日本の育児本に、(これくらいの月齢の子供には)食品を舌でつぶせる固さに調理しましょう、と書いてあるにもかかわらず、アメリカの瓶詰めはまだドロドロ状態。(アメリカでは、固形物の瓶詰めはもっと大きい月齢用なのです)
 さすがの私も米粥を作る気持ちになってしまいました。また、これぐらいの月齢になると、もうすり鉢を使う必要もなく、かかる手間が少なくなってくるからです。

 こうして手作りと市販品の組合せで、息子を育ててきたわけですが、お乳しか口にしていなかった赤ちゃんが、徐々に他の物を食していく過程はまことに興味深いものがあります。
 例えば、ツバメの巣とかフォアグラなどの珍味や高級食材ではなく、ごく日常的な食品が赤ちゃんにとっては初めての体験となるからです。
 「ああ、これがこの子が生まれて初めて食べる人参なんだ」とか思うと感動してしまって、魔がつくほどではないにしろ記録好きな私は、逐一「○月×日人参」とか書きつけてしまいました。(また、それ用の用紙がベビー用品会社からDMで送られてきたりするので)
 さすがに、全ての食品を記録するわけにはいかないので、ある時点でやめましたが、今それらの記録をながめると非常に懐かしいです。


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