第十一回 アメリカでの育児:そのニ
4.公園遊び
子供がしっかり歩けるようになると、児童公園で遊べるようになります。
(日本の公園体験がなくて書くのは良くないのですが、複数の友人や育児情報誌・新聞の記事に基づいて考えてみます)
最近の日本では、デビューを要する公園があるらしいですが、こちらはそういうものはありません。
個人主義のお国柄なので、基本的には親が自分の子供を連れてきて遊ばせて帰ります。もちろん育児仲間と連れ立って来ている人達もいますが。
子供同志がふれあうと、知らない人でも相手の子供の年や名前を聞いたりして何となく会話が始まります。そして、一方が帰る頃になると、「じゃあ、○○ちゃん、バイバ〜イ」と別れるパターン。会話がなく、「Hi!」と挨拶を交わすだけのこともあります。
(アメリカ人同志でも電話番号を交換したりして、公園から友達づきあいが始まるケースもあるのかもしれませんが、私自身はそういう光景を見たことがありません)
会話が始まるといっても、親はお喋りに夢中になるのではなく、子供から目を離さない人がほとんどです。
故に、自分の子供が他人の子供のおもちゃを力づくで奪いそうになると、親はすぐに注意します。大きな子供と小さな子供が交じり合って遊ぶ時でも、「そこに小さな子がいるから、気をつけなさい」と絶えず親が声をかけています。
そんな風ですから、赤ちゃんの域を出ない息子も、公園で大きい子に押されたり、たたかれたりしたことがありません。
ゆっくり遊具の階段を上っていく息子の後ろで、辛抱強く待ってくれる幼稚園児ぐらいの子供の姿には感心します。
アメリカでも親がおしゃべりに熱中していることもありますが、目が行き届いていない場合、その子供たちの行動には感心できない点が見受けられるように思います。
かく言う私も育児仲間と公園に行くと、やっぱり情報交換やお喋りをして子供への注意が疎かになっていることがあり、反省してしまいます。
全米の児童公園を見て回ったわけではありませんが、近隣の十ヶ所ほどを利用した結果、どこも遊具の下は、大抵木屑や柔らかい素材が敷き詰められていて、地面むき出しというのはありませんし、ブランコの椅子部分もゴム製です。
安全面でもよく考えられていると思います。
日本で育児経験がある友達は、日本の遊具はアメリカのものよりバラエティに富んでいると感じたそうです。
あと、アメリカの公園では、平日の日中でも父親が子供を連れてきている光景をよく目にします。
コンピューターの発達のおかげで在宅勤務が増えていたりするのでしょうが、彼らの姿が公園で決して浮いていないのは羨ましいことです。
ある時なんかは、昼休みに妻子と公園で落ち合って遊んでいるらしい男性を見かけました。会社に戻る時間が来て、「ダディ、夕方またね〜」と2台の車が別々に去ってゆくのは、何とも微笑ましい様子でした。
祖父母が連れてくるケースは日本でもあるでしょうが、両親とも高収入で多忙な場合は、専従のnanny(子守)を雇っていることがあり、彼女たちが公園に子供を連れてきているのも時々目にします。
5.お出かけ
赤ちゃん(幼児)連れで外に出かけるのに、stroller(日本名:ベビーカー)を持って行くケースは多いでしょう。
日本では、A型とB型に分かれていて、前者はフラットになってお座りもできない小さな赤ちゃんには適しているものの重くて大きいというもの。後者は軽くて小さく折りたためるもの。
日本の住宅事情を考えれば、少しの間しか使えないA型はレンタルして、B型を購入するという人が多いようです。
アメリカの分類も似ているようですが、AとBの二つしかないのではなく、もう少し様々な製品があるように思います。(AとかBとかいう呼称も使わない)
ただ、車社会のアメリカの場合、ニューヨークなどの大都会を除いて、たいがいの所はドアからドアまで車で移動するので、赤ちゃんを抱いて荷物とストローラーをしょって駅の階段を上る、バスを乗り降りするという状況はありません。ストローラーは必ずしも軽くて小さくなる必要はないのです。
私も大小のストローラーを持っていますが、普段使うのは荷物を一杯積める大きい方で、小さい方は旅行時ぐらいしか使いません。
バリア・フリーが広く浸透しているアメリカでは、大抵の施設は階段の他にスロープでもアクセスできる構造になっています。
ストローラー族にとっても、これは大変ありがたいことなのです。
トイレやブティックの試着室にも身障者用の個室を完備している所が多いので、ストローラーごと入ることができます。
ただし、自動ドア率は日本の方が高いように思います。(最近アメリカでも増えてきてはいますが)
アメリカでは、ストローラーを押しつつドアを開けようとしていると、大抵周りが助けてくれますが、やはり周囲に誰もいない時は往生します。
その他に、ドライブ・スルーが嬉しいですね。
ファスト・フードのみならず、銀行のATM機、テラーとのやり取り、手紙の投函も運転席に座りながら用を済ますことができるというのは、赤ちゃんや幼児を持つ人にはとても助かります。(銀行の店舗やポストによっては出来ない所があります)
6.子供服
子供服はかわいくて見るのが楽しいですが、日本のものとアメリカのものはテイストが違います。日本人の子供が着る服は、家庭によって日本派とアメリカ派に分かれますが、現地の幼稚園や学校に行く時は、周囲に合わせた方がいいようです。
ベビー服・幼児服に関しては、日本のものは紐を蝶々結びにしたり、ボタンがあったりしますが、アメリカのものは大抵スナップ。これらの服は小さいし、赤ちゃんに服を着せるのは意外に一苦労なので、日本人に比べて不器用なアメリカ人には調度いいのでしょう。
一般的に、アメリカ人は洗濯物を外に干さないので、(多くのアパートやコンドミニアムでは、規則で洗濯物を干してはいけない)、こちらの子供服は乾燥機にかけられるものがほとんどです。乾燥機OKと表示されていても多少縮んでいくんですが、その頃にはもう身体が大きくなっていて次のサイズに移るタイミングになっていました。
靴に関しては、「アメリカでは紐靴しかないから、(マジック・テープつかいで履かせ易い)日本の子供靴を送ってもらいね」と友人から脅かされた(?)ものですが、アメリカでもマジック・テープつかいのスニーカー等は売られています。
ただ、やはり紐で結ぶタイプも多く売られていて、家の中でも靴を履いて生活する文化だなあと実感させられます。(自宅や知り合いの家に上がる・去る度に、子供の靴の紐を結ぶのは、結構面倒ですから)
7.幼児向けTV番組
アメリカでも複数の教育チャンネル(国営ではない)が、子供向け番組を放送していて、家事をする時などは助かっています。
おなじみの「Sesame Street」をはじめ、CGやアニメーションのもの、恐竜Barneyの歌と踊りの番組などなど。
「テレビを見せ過ぎないようにしましょう」というのは分かっているけど、やっぱり大助かり。 Clliford にも Caillou にも Teletubbies や Mr. Rogers にも本当に感謝しております。
「Mr. Rogers' Neighborhood」は、「サザエさん」に匹敵する(「サザエさん」がまだ放送されているか知らないけど)長寿番組です。
私と同年輩の人も子供時代見ていたそうで、ちょっと古風な番組作り。監督・主演のFred Rogersが歌いながらスタジオに作られた家に帰ってきて、ジャケットをカーディガンに着替え、靴をスニーカーに履き替えるところから始まって、番組のラストにはその逆をして終わるのだけど、これもやはり長寿番組の「水戸黄門」に通じる様式美(?)です。
内容は、ゲストの(難しくない)話を聞いたり、道具や玩具を紹介したり、人形劇があったりで、全編を通してピアノの演奏の流れる中、ほのぼのとしたタッチ。
新作はもう作られておらず、過去の収録分を放送しているので、現在のロジャーズさんはTVで映っているよりご高齢です。2001年4月のNYタイムズに彼の記事が載っていたのですが、ロマンス・グレーなロジャーズさん(当時73歳)の写真もありました。
映画「ポルターガイスト」(そう言えば、これは30年ほど前の映画)に、この番組がチラッと出てきます。(ロジャーズさんが若いんだ〜)
登場するキャラクターがコンピューターを駆使する(そういう意味で「Mr. Rogers' Neighborhood」の対極とも言える)のが、「Between the Lions」です。これは、大人(特に英語を勉強している人)が見ても見ごたえのある番組で、私の一番のお気に入り。
図書館の司書をしているライオンの家族(夫婦と一男一女)の日常を通して、子供に読書の楽しさや言語の魅力を伝えてくれます。音声学的な要素やスペリングも取り入れられています。こう書くとお堅い内容かと思いますが、歌や言葉遊びが豊富に盛りこまれ、私は楽しく視聴しています。
毎回母ライオンが子ライオンの兄妹に1冊本を読むのですが、その時TV画面一杯に本のページが広がります。つまり、TVを見ながら、本を読んでいる感覚になります。そして、そのままでは芸がないので、TVであることを活かして、さし絵が動いたり、音読している母ライオンの声に合わせて活字のハイライトが動いていったりします。
取り上げられている本は、ギリシャ神話ありイソップあり、頓知モノ、感動ものなどヴァラエティに富んでいて、私自身、幼い頃から本が大好きだったので、あらためて本の持つ力のすごさを体感しています。
その他に騎士の槍試合、 Tiger Woods ならぬ Tiger Words のゴルフ・トーナメント等々いろんなコーナーがあって、発音やスペルを楽しく学べます。
タイトルの「Between the Lions」は、2頭のライオンの像が入り口に鎮座しているニューヨーク市立図書館をイメージしているのでしょうか? ライオンの発音にほのかにニューヨーク訛りがあるような気がするし、番組のところどころにニューヨーク・テイストが感じられるのです。
日米の幼児番組と比較して感じたことは、まず、日本のは歌や体操のお姉さん・お兄さんがいて、パフォーマンスを見せてくれますが、アメリカにはそういうのはないと思います。(たまたま今そういう番組がないだけなのかもしれませんが)
歌ったり踊ったりする人は着ぐるみなので、子供の目に生身の大人ではなく、恐竜や異星人がやっているように見えていることでしょう。
どっちが良いのか、どっちも同じなのか分かりませんが、気がついたのでちょっと書いてみました。
あと、日本の番組は季節感があっていいです。春には春の歌、夏には夏の歌が聞けますし、お正月、お月見など年中行事もタイミングを外していないと思います。
その点、アメリカはもう春なのにハロウィーンやクリスマスの話題を取り上げていたり、ちょっと首を傾げてしまうことも。国土が広いので、自分たちがセーターを着ているのに番組に出てくる子供が半袖を着ていてもOKですが、行事はねぇ。「半年前にウチでもこういうかぼちゃを飾ったわね」などと家庭で回想したりするのでしょうか?